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2013.08.23 創作短編「クリスマス・ローズの墓」 投稿者:昼寝ネコ

  Nancy Wilson - The Christmas Waltz

クリスマス・ローズの墓
 
 
昼寝ネコ
 
 
 

年齢不詳とはいうけど、80歳は超えていたと思うよ。
ときどき東部アクセントが出ることがあったから、
町のみんなは、何か事情があってこの中西部に
逃れてきたんだろうって、もっぱらの噂だったよ。

通りで子どもたちが大声で遊んでいると、
彼女は、うなり声をあげるドーベルマンを連れてって
追っ払ったもんだから、みんな怖がってたっけ。
募金や寄付のお願いに行ったって門前払いだし、
教会のチャリティーイベントだって
参加したのを見たことないしね。
いつも喪服みたいに黒い洋服ばかり着て、
道ですれ違ったって、ハローのひと言もないし、
誰も近づく奴なんていなかったよ。

今年の寒波は例年になく酷かったから、
さすがの彼女も肺炎には勝てなかったみたいだね。
葬式だって、ボストンに住んでるっていう
息子さん家族だけだったそうだよ。参列したのがね。

ところで、この町に、「クリスマス・ローズ」って
みんなから親しまれている人がいるんだよ。
毎年、クリスマスや感謝祭には何カ所もの孤児院に
たくさんのプレゼントを届けてくれる人がね。
それだけじゃないんだ。あるとき総合病院に
重い病気の子が入院して、最新式の特殊な医療器械がないと
死ぬのを待つしかないっていうんだよ。とっても高額で、
町のみんなが必死に寄付を呼びかけたんだけど、
何十万ドルもする器械じゃあね。

子どもの症状は悪くなる一方だし、親は悲嘆にくれるし
町中がすっかり暗くなってしまったんだよ。
でもある日、新聞の記事を見てみんなびっくりさ。
病院にその器械が届いて、しかも誰かが寄附したっていうんだ。
問い合わせても「クリスマス・ローズ」という名の女性から
小切手が送られて来て、すぐにその器械を病院に届けるよう
依頼があったけど、それ以上のことは分からないってさ。

話しは戻るけどね、あの偏屈ばあさんの葬式のあと、
息子さんが弁護士に依頼しておっかさんの銀行口座を
調べたそうなんだよ。
いろいろ調べたら、「クリスマス・ローズ」っていう人が
あちこち寄付した時期と小切手の支払金額や支払先が
重なるらしいんだ。で、決定的だったのが
病院に寄付した高額な医療器械さ。
支払先がそのメーカーだって特定できてね、
それで謎の「クリスマス・ローズ」が実は
みんなから嫌われていた、あの偏屈ばあさんだと
いうことがはっきりしたというわけさ。
おまけに、「クリスマス・ローズ」っていうから
てっきりバラの花かと思ってたんだけど
違うんだってね。あのばあさんの庭に
たくさん咲いていたのが「クリスマス・ローズ」
なんだってさ。なるほど、だよね。

でも、いいことをしてんだから、「私が寄付したんですよ」って、
自慢したっていいようなもんだと思うだろう?
生まれも育ちもボストンの名門らしいんだけど、
何があって中西部のこんな町に住むようになったか知らないが、
野良ネコのおいらにゃあ金持ち人間の考えてることが、
ちっとも理解できないよ。

でもね、今じゃ彼女のお墓には、花が絶えないそうだよ。
クリスマス・ローズの花束がね。
 
 
 

  • 日頃の無愛想は、善行を決して知られたくないためのカモフラージュなのでしょうか?
    人は見かけによらない、などという半端なものではなさそうです。
    ところで梅と桜の違いが区別できないという珍しい人物である昼寝ネコ先生、クリスマス・ローズを検索されましたか?私の家の庭にも濃い紫と白のクリスマス・ローズが咲きます。
    花は勿論然りで、緑色の大きめの葉もスッとのびた茎と共に、生命力を感じさせる勢いがあります。
    人の手でケアーせずとも力強く自らを完結させて長い期間咲いています。花の命が短くないのです。ですから見る者の目と心を満足させてくれます。その意味ではこの女性は正にクリスマス・ローズにふさわしい実在(?)の方ですね。 -- パシリーヌ 2013-08-24 (土) 07:07:28
  • パシリーヌさんへ

    有難うございます。
    パシリーヌさんが、日本のクリスマス・ローズだったなんて
    ちっとも知りませんでした。
    この花の名前が思い浮かんだとき、バラの一種だと思いました。
    で、調べたら違いました。でも、名前がいいので使用しました。
    今でも、梅と桜をばらばらに見せられたら区別がつきません。
    バラとの違いは分かりますけど。

    この、ボストン出身の女性は、遠く離れた町に住もうと考えるほど
    ボストンに、いられない事情があったようです。
    悔悟の気持ちが強すぎたため、人との接触を嫌いましたが、
    心の奥深くでは、人に善意を施すことで
    抱え込んでいる苦しみを薄めたかったのでしょう。
    時間が限られていましたので、そこまで言及できませんでした。
    つまり、この原稿は「クリスマス・ローズ」の半生の
    ほんの終盤のひとこまという位置づけです。 -- 昼寝ネコ 2013-08-24 (土) 12:28:33
  • 私が日本のクリスマス・ローズだった?初耳です。何かの誤報ですから信用しないでください。でないと特殊医療機器を贈呈する羽目になるやも知れません。 -- パシリーヌ 2013-08-24 (土) 19:28:14
  • パシリーヌさん

    誤報でしたか。それは失礼しました。
    でも、庭先にクリスマス・ローズが植えられている生活、
    羨ましいですね。
    -- 昼寝ネコ 2013-08-24 (土) 21:58:07
  • 素敵な話しですね〜ちょっとやってみましたが凄くいい(^ ^)こんな短編を音楽で繋げて語ってみたくなりますね。これは昼寝猫さんのオリジナルですか? -- 中塚 2013-09-29 (日) 01:02:06
  • 中塚姉妹

    お読みくださって、有難うございます。
    はい、これはmade in hirune-neko 100%の作品です。
    どんな人間の人生にも、表面を見ただけでは
    見えない部分が隠されていると思います。
    なぜ、普段はあんな行動だったのか・・・
    答えはありませんが、聞く人間が想像すべき領域のお話しです。
    へたに芝居ではなく、モノローグで
    イメージを創造するのもいいものでしょうね。
    機会があったら是非、聞かせてください。
    -- 昼寝ネコ 2013-09-29 (日) 01:16:56
  • このお話、何処かで聞いたような、映画の中のような、、、
    初めて聞く話のような感じがしません。人は生前どんなに嫌われてる人に見えても、
    必ず善を持っていると思います。
    亡くなってからその人が判る、という話はよく聞きます。  
    クリスマス・ローズ、私の猫の額、いえネズミの額の庭の片隅に、ひっそり生きています。ほっとかれ、暑い夏にも耐えました。 花も葉と同じような色で目立たず生きています。
    手が掛からず、日蔭でも大丈夫と植えました。
    日蔭、手が掛からない、ほっとかれ、まるで私みたい!と思ったものです。
    クリスマス・ローズ、なんて素敵な響きでしょう。 
    昼寝ねこ氏のこのお話で 一層この花が、好きになりました。 -- 水引草 2013-09-29 (日) 22:44:02
  • 水引草さん

    感想コメントを有難うございました
    文中では理屈をこねませんでしたが、人間は誰でも・・・
    たとえ周りから、どんなに偏屈な人間だと思われる人でも、
    必要とされたり、感謝されたり、関心を持たれたりすれば
    悪い気はしないと思います。

    家内にいわせると、私ほど手がかかる人間はいないそうです。
    そうかもしれません。仕事ばかりして、家のことは
    何もしませんから。
    この、クリスマスローズのお話しは、
    へぇ〜、そうだったんだ、と、いい方向に意外性があり
    ある意味で、ほっとしていただけるのではないかと
    思っています。 -- 昼寝ネコ 2013-09-29 (日) 22:57:08
  • 水引草さま。
    手のかからない子ども(大人?)は親孝行な子どもだと思っていました。でも本当は
    だからといって放っといてはいけないのですか?騒ぐ子供に手間暇かかって、つい放っとく
    状態になってしまいます。 -- 空の鳥 2013-09-30 (月) 06:08:56

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