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131001-1昼寝ネコ

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2013.10.01 創作短編「ボクのご主人様はプロフェッサー」 投稿者:昼寝ネコ
 

(あっ、カトリ〜ヌ・笠井さん作の画です)

画像の説明
 
 

ボクのご主人様はプロフェッサー
 
 
昼寝ネコ
 
 
 
 どうやらボクは小さいときに、ご主人様に拾われたらしいんだ。独りぼっちで寒さに震え、冷たい雨を避けていた秋。ボクは行き所を失い、食べ物を探す元気もなくなって・・・ご主人様が拾ってくれなかったら、とっくに死んでいたんだろうなと思う。

 ご主人様の部屋は、どこもかしこも本と雑誌と論文だらけ。難しい大学で難しい講義をしているせいなのか、性格まで難しくなっちゃったので人付き合いもなく、パーティーもみんな断ってたみたいなんだ。
 いつも本を読むか、論文に目を通していて、テレビもない家なんだよ。音楽だって、長ったらしいオペラばっかり聴いていて、とっつきにくいったらありゃしない。
 でもね、ボクにはいつも優しかったんだよ。まるで話し相手は、この世にボクしかいないような感じで、仕事以外に電話なんてかかってこないし、私的な連絡なんて、お母さんが亡くなったとき、妹さんから連絡があっただけじゃないかな。

 気がつくと、そんなご主人様が本から目を離し、窓の外を眺める時間が長くなったの。もう一年も前になるかな。
 どうしちゃったんだろうって、心配だったよ。理由はじきに判明したけどね。新学期から講義に出席するようになった女子学生に・・・どういう表現が適切なんだろうね・・・好意を抱いた。恋をした。関心を持つようになった・・・。
 だってね、ご主人様とその女子学生は、年齢が30歳以上も離れているんだよ。ため息をつくご主人様の姿なんて、それまで見たこともなかったなあ。人に心を開かないご主人様だったけど、ボクには平気で思ったことを表現してたんだよ。まさかボクが、人間の言葉を理解するだなんて、思ってもいなかったんだろうね。

 「私のこれまでの人生は、なんだったんだろうね」
 有名な大学院を優秀な成績で修了し、英国の著名な大学院にも留学した、いわばエリート学者だったのにね。妙に、自信を失ったような、弱気な言葉が出るようになったんだ。
 その女子学生はもう卒業してしまったけど、ご主人様は結局何も伝えられず、また独りの世界に閉じこもってしまったの。自分の住む世界はここにしかないってさ。慣れ親しんだ学究の世界。でも、以前と比べると、ずっと本を読む時間が短くなり、オペラを聴く時間が増えたみたい。

 頭で考える時間と、心で感じる時間が少しずつ逆転したんだね。でもね、ボクにはこういうんだよ。
 「私は、これまでの人生で、少し本を読みすぎたようだ。でも、お前はまるっきり本を読まないね。私に飼われているんだから、少しはアカデミックな時間をとったらどうかね」
 そういうとご主人様は、ラテン語だかギリシャ語だかの分厚い本を僕の前に放り投げ、オペラを流すと、ソファに横になるのが日課になってしまったんだよ。

 いくらなんでも、そんな難解な本を前にしただけで、最近寝不足のボクは、分殺でまぶたが重くなってしまうんだよ。
 ご主人様は、向こうでアイーダを聴いている。昨日はトスカだったっけ。
ボクはね、ひたすら眠いのを我慢して、本の活字とにらめっこしているんだよ。でももうだめだ。やっぱり眠いや。(2008.06.20作品)

  • 「少しはアカデミックな時間をとったらどうかね」名セリフで、自分に言われているようです。 -- パシリーヌ 2013-10-02 (水) 05:43:39
  • パシリーヌさん

    いえいえ、パシリーヌさんはもうすでに
    十分アカデミックですよ。

    当時は、カトリ〜ヌ・笠井さんが画を送ってくれると、
    それを眺めて思い浮かんだストーリーを書きました。
    この画が届いて真っ先にイメージしたのが
    「少しはアカデミックな時間をとったらどうかね」でした。 -- 昼寝ネコ 2013-10-02 (水) 12:49:54
  • この絵を見ていると確かにご主人様に負けず劣らずのかわいいプロフェッサーねこ、ですね。飼い主に似るというじゃないですか。粋なカトリーヌさまに感謝。 -- パシリーヌ 2013-10-02 (水) 13:39:16

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