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14062402徳沢愛子

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2014.06.24 詩・散文「あ・鳩が」 投稿者:徳沢 愛子
 
あ・鳩が ―長崎報告―  
 
徳沢 愛子
 
 
平和像の上空に 秋は来ていた
献花の山に降りてきた秋が
風を起こすと
あの日のにおいがした
においを嗅ぐたびに
傷は赤い口を開けた
8月9日午前11時2分は
毎年新しくやってきて
人を老いさせる
あ・鳩が
鋭く天を突き上げた人さし指に

“和代”と気合を入れて
名付け 待っていた赤子には
両眼がなかった
眼窩は蒼い影をつくっていた
透きとおる白い肌の子だった
深い沈黙の色であった
蠟をひいたような艶やかな肌は
一層 沈黙を引き立てた
彼女はこの世で暫くの間
やさしく 泣いた
やがて 糸を引くように
細く泣き止んだ

泣くことしかなかった
人はその淋しい声を
聴くことしかできなかった
泣くことと
聴くことの間には
毛すじ一本も隙間はなかった
泣くことと 聴くことは
組んず念ずして
絡まり 抱き ひとつであった
息さえかかるひとつというのは
毎年激しく人を生き返らせる

瞑黙する平和像の指先で
鳩は彫像のように動かない
深い蒼穹は
明るい瞳のように見開いている
  *2007年に刊行された「原爆詩181人集」(コールサック社)に参加し収録された作品
   *著者・徳沢愛子略歴
 
 

  • 投稿を有難うございます。鋭い感受性から編まれる言葉の数々に、圧倒されました。 -- 昼寝ネコ 2014-06-24 (火) 21:06:43
  • 徳沢愛子姉妹
    「泣くことと 聴くことの間には 毛すじ一本も隙間はなかった」
    読んでいる者と作者の間には毛すじ一本も隙間はなかった。~ひとつであった、と引用させて頂きました。
    命の尊厳がかくも昇華された言葉で記されている詩を読んだことがありません。 -- 岸野みさを 2014-06-24 (火) 21:50:38
  • 平和への願いがひしひしと伝わってきました。詩という表現方法に、すべての感情をこれほどまでに投入できるのは並の者では出来ないことです。これを読んだ人々によって、原爆の悲惨さが後世に語り継がれますようにと祈るばかりです。優れた文学作品の果たす役割の重要性を再認識いたしました。これからもどんどん作品を発表してご活躍ください。 -- 加納敏江 2014-06-28 (土) 14:35:15

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