穀粒(こくつぶ)会員のための、創作および出版支援サイト

15021701昼寝ネコ

トップページへ 譜面台の練習曲メニューへ 画像の説明
2015.02.17 エッセイ「晩年にフラッシュバックする光景」投稿者:昼寝ネコ

Astor Piazzolla - Jardines de Africa
 
晩年にフラッシュバックする光景
 
 
昼寝ネコ

長男に誕生日のメールを送っても、
参考になりそうな資料をメールで送っても、
さっぱり返信がない。
そうなると、親というのはあれこれ心配して
病気や事故などの想像を巡らしてしまう。

思いあまって今日、「大丈夫なのか?」と
メールを送ってみた。
すると、10分も経たないうちに返信があった。

昨日、ドイツに到着し、
その日から仕事を始めているという。
最近は月に一度はドイツに行っているらしい。
一日3〜4時間の睡眠がずっと続いているが
毎週クラブチームのバスケに参加しているし、
最近、何種類もの進行性ガンの検査を受けたが
全然問題なしだったと書かれていた。

「便りのないのはいい便りだよ」といっている。
何を馬鹿なことをいうんだろう。

私は4人の子どもたちそれぞれの、
正確な年齢を知らない。聞いたって、年齢は
毎年変化するのだから、記憶に留めることはできない。
誕生日は不変なので憶えている。しかし、
四捨五入すれば40歳になるのと、30歳になるのとに
大別できる程度のことは把握している。

かなり以前、カウンセリングをしている人から聞いた。
人生にはある時期、フラッシュバックといって
遠い過去の忘れていたことや忘れ去りたいことが
なんの脈絡もなく、突然映像を伴って
思い出すことがある、
そんな感じの内容だったと思う。

脳内に映像を伴って現れる人物の日常を、客観的に
凝視することがしばしばある。
それを素材にして、短いストーリーを紡ぐのは
なんとなく創作活動に携わっているようで
充実感がある。

しかし、突然自分の醜悪な過去の情景が
映像とともに悔悟の念を伴い、
脳内に投影されることが多くなってきた。
以前、単行本を出版したときにあれこれ
助言してくれた女史がよくいっていた。
作家というのは、
自分の最も醜悪な部分を表現できなければ
プロとはいえない、といっていたのを思い出す。

どんな醜悪な情景だったかなど、
ブログになんてとても書けそうもない。
もちろん自叙伝ではなく、創作作品中の情景ならば、
読者はまさかそれが私の実像だなんて
考えないだろう。

数ある奇跡の中で、何が一番大きな奇跡だろうか。
人間がその生き方を変えようと決心し、
努力することが最も大きな奇跡だと思う。

福祉団体からの依頼で、5〜6回の面談に立ち会った
男性がいた。ある宗教団体に属していたのだが、
お酒とタバコと睡眠導入剤に依存し、いかにも
体調が悪そうで、ときどき何度も咳き込んだ。

ある日決心して、お酒を止め、タバコも止めた。
彼が心からの心情を吐露したときのことを、
鮮明に憶えている。

「とても平安な気持ちを感じます。
私はどこに行っても、
誰からも受け入れられませんでした。
でも、皆さんはいつでも私を受け入れてくれました」

その会話から2週間ほど経った昨日、福祉団体の方が
最近その彼から連絡がないので、電話してみてほしいと
依頼してきた。
携帯電話に何度かかけてみたが、
電源がオフになっている
というアナウンスしか聞くことができなかった。
その旨を福祉団体の方に報告しようと思い、
電話してみた。

「私たちは彼のお友だちに連絡をとってみたのですが、
彼は先週の日曜日に、亡くなったそうです」

一瞬、絶句してしまった。
おそらくは60歳ぐらいだっただろうか。
葛藤と苦難の中を生きてきて、初めて平安を感じ、
まさに生き直そうと決心していたその時期に、
彼は還らぬ人となってしまった。

心の中を推し測ることはできない。
無念な気持ちなのだろうか。
あるいは、永遠の安息に入り本当の意味で
平安な気持ちに満たされているのだろうか。

もう会えなくなってしまったが、
私なりに乏しい時間を割き、心に促されるままに
できるだけのことはできたと感じている。

またときどき、フラッシュバックに悩まされる
こともあると思うが、どんな内容であれ、
心の中の葛藤とは、真摯に向き合って生きようと
改めて感じている。

さようなら。ましゅうさん。
 
 

  • 昼寝ネコさま
    四捨五入の年齢なんて超越していていいじゃないの。その先を曲がるとフラッシュバックもなくなるかも知れませんので今の内に書き留めておいてください。
    変わろうとするのを
    やめるとき、
    そのときは、
    生きようとするのを
    やめるとき。
    アントニー・デ・メロ -- パシリーヌ 2015-02-17 (火) 21:02:15
  • パシリーヌさん
    励ましてくださって有難うございます。確かに、生きている限りは自己変革をし、常に学び続けたいと願っています。脳内空間を無理矢理こじ開けている感じですけど。 -- 昼寝ネコ 2015-02-17 (火) 22:27:01
  • 昼寝ネコさんの真骨頂が現れている、素晴らしいエッセイです。numano jiro -- 沼野治郎 2015-02-18 (水) 09:51:41
  • 沼野治郎兄弟
    お読みいただいた上に、コメントをお入れくださり有難うございます。

    昨秋以来、異常に忙しくなりネット徘徊もままなりません。すっかりご無沙汰しております。以前から、ご著書の紹介をさせていただこうと思いながら、先送りになってしまい大変申し訳なく思っております。改めてご連絡させていただきますで、しばらくお待ちくださいますよう宜しくお願いいたします。 -- 昼寝ネコ 2015-02-18 (水) 13:29:20

認証コード(2659)

powered by Quick Homepage Maker 5.3
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional