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2015.11.06 エッセイ「聴くー金沢こころの電話40周年に寄せて」投稿者:徳沢 愛子

相談電話の前でいつも思ったものだ。「何と人生は重々しいものであるのか。試練や悩みの山を何とか一つ越え二つ越え、そして少しほっとし、また再び汗して登っていく」。電話の向うの人の思いに心澄まし、共感し、肯定し、またひたすら傾聴し、思いやりをもってその一対一の関係を丁寧に紡いでいく。その作業はある時は充実し、またある時は無力感に襲われ、受話器をとる意味があるのか、資格があるのかという内なる声が聞こえてきたりして落ちこむことも度々であったが、今は懐かしい思い出である。
金沢こころの電話の活動に参加したのは、今42才の五男が幼稚園に行きはじめた頃であった。5人の息子達の子育てに夜も昼もなかった。その時代がようやく過ぎ午前中は自分の時間を持てるようになった時、そこへ金沢こころの電話の初公募があり飛びついた次第。蜂の巣をつついたような騒がしい日常をしばし脱出し、相談員としての研修を受け学んだ日々や、実際に受話器を耳にあてながら真剣にクライアントの心の叫びに傾聴した年月が懐かしい。行動し続ける日々は悩んだり、笑ったり、頷いたり、涙ぐんだりそのどのひとときも勢いよく流れ飛沫あげるような生き生きした時間であった。こんなことがあった。
80代後半のひとり暮しの男性からの電話である。「ひとりは淋しいもんじゃ」〈ご家族は?〉「誰もおらん」〈それはお淋しいですね。かわいい子犬を飼ってみられたらどうでしょう〉「あんた何言うとるがけ。犬飼うたら散歩に連れて行かんならん、エサ代もかかる、ほんなことできっかいね」〈じゃあ 千寿閣の健康交流センターへ行って囲碁とか民謡とか習って、お友達作られたら〉「あんたバカ言うもんじゃない、バス代往復で大出費や、ちょっこしの年金でそんな大金出せっかいね」〈それもそおですけどお…〉といった切ないやりとり。また「主人が浮気している、こんなことあんなことがあった。私はどうしたらいいんでしょ」といった相談を延々2時間話し続けられ、やがて心の中を洗いざらい吐き出してしまったら、「もうちょっと頑張ってみます」と自ら決着をつけられた中年女性もいた。殆どの相談は傾聴だけで悩みは半分解決できるのである。人との絆の中で重荷を半分おろして生きる、そのお手伝いを金沢こころの電話は担っている。その社会的意義は大きい。当時私はこんな一文を書いた。「金沢こころの電話の活動も今年で7年目に入る。豊かでもない財布から身銭を出し、多忙で疲れ気味な時間の一部を見知らぬ人のために差し出すいろんな職業の会員達。彼らは交替で休日祝日、土曜月曜の夜、黒い電話の前に息をひそめ孤独な悩める隣人を待つ。それは何程の助けにもならないだろうが、彼らの人生の一番重いと思われる部分にほんの一瞬関わって、大変ですねえと心を傾けて聞き入る間に、彼らの巨大だった風船のような悩みは少し萎(しぼ)んでくる。そのすき間に細い光が差しこんで力の入っていた肩は少しほぐれ、少しばかり胸に勇気を湧かせ、少し笑顔になって互いの人生を交差していく。会員達はサマリア人となってその悩みに共感しまさに心で聴くのである。思いやりに裏打ちされた傾聴である。人間関係のすべてにわたって、(聴く)というアクティブリスニングは、我々が社会にあって心豊かに生きる上で実に欠かすことのできない大切な行為であろう。」(聴く)は関心を持つことである。
私は一時期、副会長もさせていただいた。賛助会員を含めれば37年間、金沢こころの電話の活動は、私の人生のハイライトであった。仲間達とオーストラリア研修旅行にも行った。色々な活動もした。先輩の先生方の素晴らしい生き様も学ばせてもらった。幸福は隣人と共にあるということも知った。奉仕は人間を耕すために不可欠な行為であると、今私はしみじみ思う。

  • 徳沢愛子姉妹
    働き盛りの37年間に渡って、神と苦悩の隣人に仕えた歳月は確かな金字塔です。輝く人生のハイライトを得たのはその高邁な慈愛の精神と実行力への主からの祝福でしたね。5人のお子さんを育てながら偉大な女性に値する生きざまをされた姿を眩しく感じます。いつまでたっても中途半端な自分を恥じて、まだ間に合うのか、と悔い改めています。ありがとうございました。 -- 岸野みさを 2015-11-07 (土) 06:56:49
  • 愛する母の光は、いつもワンパクな息子たちを照らしていました。その光はイエス様の面影を映し、わたしたちが進もうとするその光の路を、いつも明るく照らしているのです。また、「人生の喜びは、クレッシェンド」につき、ハイライトはこれからですよ。まだまだ、楽しんでいこう! -- あなたの息子 2015-11-07 (土) 15:10:50
  • 素晴らしい信仰実践をされたのですね。読ませていただいて、感動いたしました。 -- 沼野治郎 2015-11-08 (日) 16:41:58
  • 忙しい子育ての間にご自分の時間が持てるようになったところを、ご自分自身のために使うのではではなく、見も知らない人のために費やされるという選択をされた事に、大変感服いたしました。「慈愛」とはかくあるものかと感じた次第です。有難うございました。 -- 向谷亮 2015-11-08 (日) 19:43:27
  • 私はラジオのテレホン人生相談を聴くのが大好きです。相談者の質問に対して核心を突く回答を出すコメントを聞くと見事だな、と関心します。 -- ドンタコス 2015-11-12 (木) 21:48:34

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