16071501徳沢愛子
2016.07.15 詩・散文「爪先立つ」 投稿者:徳沢 愛子
爪先立つ
幼な子が小枝にとまった甲虫を捕ろうとして
爪先立ちしている
黒褐色の強大な足に見とれながら
チクチクする脛節を恐れながら
先の割れた勇者のような角に
殺気を感じながら
甲虫を捕ろうとしている
柔らかいふくらはぎ
爪先だった素足
その白い足裏まで甲虫に集中している
その後姿は
隅から隅まで緊張している
ぼくにもあんな夏があった
そうして爪先立ちしながら
手をのばし 手をのばし
少年になり 青年になり
大人になった
老いた今も
爪先立ちして甲虫の夢に手をのばしている
森を通る緑の風に遊ばれながら
ぼくは
新しい夏の真ん中で
爪先だって遠くを見透かしている
力強い何かを捕えようとして
- 徳沢愛子姉妹
一枚の絵画のような描写の中に老いた今と幼き日の映像がオーバーラップして、人の生きる姿の一途な「足裏まで~集中している」力強さと逞しさ、美しさが表現されている人間賛歌だと思いました。ありがとうございました。 -- 岸野みさを 2016-07-16 (土) 11:54:26 - つま先で立ったまま、見通しの付かない毎日はこころ細いものでした。いつこの試練に光明が射すのだろうと不安でした。でも前に進まないわけにはいきませんでした。事故後の夫のからだを気遣い、六人の子どもたちとおなかの中の新しい命のために。徳沢愛子さま、あれから20数年が経ちました。老齢の身がたとえ爪先立ちで倒れもかけても、13人の子どもと12にんの孫の力強いたくさんの手が支えてくれることを信じています。 -- 増田 美津子 2016-07-16 (土) 16:06:10