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2018.06.25 エッセイ「年経(ふ)れば(6)」 投稿者:岸野みさを

年経(ふ)れば(6)

歯なしの話
 ママは前歯の差し歯が取れたので接着してもらったのに、一週間後に再度取れてしまった。そもそも20歳の成人式の日の朝、千葉の干しあさりを食べた時欠けてしまったのだった。差し歯はそれから20数年もったのだからごくろうさん、というところか。
先日靖国神社の春の例大祭に行って、友人と食事中に再度とれてしまったそうだ。皇族の皆さんが見えた時に万歳三唱をしたというが、「その時でなくてよかったね」とばあは言った。「中学の卒業式のPTA会長挨拶の最中でなくてよかったね」とばあは繰り返した。

人に騙されたことがない(1)
 彼は自分の人生で人に騙されたことがない、と言うのだが忘れてしまったのだろうか?若い頃、仕事で近道をするために山道を車で走っていると、二人の男が立っていて、手を挙げて車を止めさせられた。「何ですか?」と聞くと一人が「これ、買ってくれませんか?」と財布をいくつか見せた。「サイフは持っているので」と断ろうとすると、その前に「ワニ革ですよ」という。ワニなんてオーストラリアにでも行かないと捕獲できないだろうにと思っていると「たった1000円ですよ」こんなところでこんな商売をするようではロクな者ではないと察した彼は「じゃあ、買います」と言うと「2ついいだろう」と態度が急変したそうだ。怖くなった彼は仕方なく2000円払って2つ買わされることになった。昭和44年当時の彼の初任給は34000円だった。その後そのサイフはすぐにボロボロになってしまい
革製品ではなかったことが判明した。二つ目のサイフがどうなったのか、今では本人も覚えていない。

人に騙されたことがない(2)
 彼は仕事に成功して生活にゆとりができた50代。あるとき電話が来て、「エアコンのお掃除を2000円でやりますよ」と言う。何回も電話が来たので「いいですよ」と言うと男女二人でやってきて、きれいにお掃除してくれた。蒸し暑い時期だったので涼しい風は心地よかった。ところが「実は今使った掃除機の大型があるんですが買いませんか?」なんと
営業だったのだ。エアコンのお掃除というのはひっかけだった。断りきれない彼はその掃除機を買ってしまった。定価は40万円。「そんなお金どこにあるの?」と奥さんにこっぴどくやられたそうだが「性能がいいんだよ」と言ったそうだ。ビルなどの広い場所ならともかく家庭の狭い部屋を掃除するには大型で使い勝ってが悪い。収納するにも不便で何年か使ってはみたものの、結局、粗大ごみになってしまった。
 人に騙されたことがない、と彼は言うがこれはれっきとした「人に騙されたことがある」
ということではないか!

おじいちゃんとは呼ばせない
 初孫で喜んでいる男性「ワシは孫にお爺ちゃんとは呼ばせないよ」と言ったそうだ。
「師匠と呼ばせる」「何の師匠ですか?」「将棋の師匠だ」ごもっとも!「もう一つ隊長と呼ばせる」ごもっとも彼はボーイスカウトの隊長なのだ。スノボーでは何と呼ばせるのか?「コーチ?」初孫は生まれたばかりで彼は時間の経過を計算することを忘れているのではないか。言葉を言えるようになって「シショウ」は言いにくいし、結局「ジイ」に落ち着くのではないだろうか?故人になった人で「おばあちゃん」と呼ばせない人がいた。「バアバ」なのだった。ちょっと言い間違えば「ババア」じゃないか?


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