14062403徳沢愛子
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2014.06.24 詩・散文「焼場に立つ」 投稿者：徳沢 愛子
焼場に立つ ―長崎原爆投下―
徳沢 愛子
口一文字という言葉は
直立不動という言葉は
寂寥という言葉は
この少年のためにある
ぐにゃり頭をのけぞらせた弟
すでに息絶えている弟をおぶって
少年は凛然と立っていた
坊主頭から泥靴の先まで
一分のスキもなく
一分の弛みもなく
兵士のような面構えで
少年は立っていた
誰よりも大声で
誰よりも無言で
誰よりも孤独で
誰よりも激しく
誰よりも人間らしく
即席の焼場に漂う
濃厚な死臭の中で
少年は息を殺して立っていた
原爆投下 父もなく 母もなく
枯葉色の大地に 今
少年はただ一人の身内
宇宙から超然と一人やってきた者のように
寥寥として立っていた
何者も切り離せない確かなものを胸に
痩せた少年は一本の裸木のように立っていた
熱い夕暮れの風が
少年の頬を撫でていく
遠くで百の 千の 万のひぐらしが
季節を急いで茜色に啼いていた
＊著者・徳沢愛子略歴
- 投稿を有難うございました。短い文章の中には、納まりきらない感情と痛みとが、無言のまま、重く沈んでいるのを感じました。 -- 昼寝ネコ 2014-06-24 (火) 21:14:20
- 徳沢愛子姉妹
「遠くで百の 千の 万のひぐらしが」啼いているように平和への魂の叫びと祈りが心底に響き渡り、血の涙が滲み出るほどでした。「あ・鳩が」と共に、後世に継承される偉大な作品だと思います。
ありがとうございました。 -- 岸野みさを 2014-06-24 (火) 21:56:52
以下は写真を撮影した米従軍カメラマン、ジョー・オダネルのコメントです。
「佐世保から長崎に入った私は、小高い丘の上から下を眺めていました。・・・１０歳くらいの少年が歩いてくるのが目に留まりました。おんぶひもをたすきにかけて、幼子を背中にしょっています。弟や妹をおんぶしたまま、広っぱで遊んでいる子供の姿は当時の日本でよく目にする光景でした。しかし、この少年の様子ははっきりと違っています。
重大な目的を持ってこの焼き場にやってきたという強い意志が感じられました。しかも足は裸足です。少年は焼き場のふちまでくると硬い表情で目を凝らして立ち尽くしています。
・・・少年は焼き場のふちに、５分か１０分も立っていたでしょうか。白いマスクをした男たちがおもむろに近づき、ゆっくりとおんぶひもを解き始めました。
この時私は、背中の幼子がすでに死んでいることに初めて気づいたのです。男たちは幼子の手と足を持つとゆっくりと葬るように、焼き場の熱い灰の上に横たえました。
まず幼い肉体が火に溶けるジューという音がしました。それからまばゆいほどの炎がさっと舞い上がりました。真っ赤な夕日のような炎は、直立不動の少年のまだあどけない頬を赤く照らしました。
その時です、炎を食い入るように見つめる少年の唇に血がにじんでいるのに気がついたのは。
少年があまりにきつく噛みしめているため、唇の血は流れることなく、ただ少年の下唇に赤くにじんでいました。夕日のような炎が静まると、少年はくるりときびすを返し、沈黙のまま焼き場を去っていきました。背筋が凍るような光景でした。」 -- コニー 2014-06-25 (水) 11:32:13- コニーさん
教えていただきたいのですが、「写真を撮影した米従軍カメラマン、ジョー・オダネルのコメント」ということは、この写真が収録されている本が出版されているということでしょうか。もしそうであれば、出版社名やタイトルなどの情報を教えていただくことは可能でしょうか。興味がありますので、宜しくお願いいたします。 -- 昼寝ネコ 2014-06-25 (水) 12:01:45 - 昼寝猫様
「トランクの中の日本―米従軍カメラマンの非公式記録 」 という本があります。 -- コニー 2014-06-25 (水) 15:04:46 - コニーさん
有難うございました。amazon.comで確認できました。現在もまだ入手できるんですね。説明を読むと貴重な写真集のようです。情報を有難うございました。 -- 昼寝ネコ 2014-06-25 (水) 15:12:21 - 火垂るの墓の映像が蘇ってきました。こちらは妹でしたが。幅広い知識と感性が紡ぎだす言葉には人を引き込む力がありますね。切なくなりました。林京子の「祭りの場」で長崎の原爆を疑似体験しましたが、「ヒロシマ・ナガサキ」を風化させてはならないとつくづく思います。
-- 加納敏江 2014-06-28 (土) 14:21:32
