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2019.04.21 詩・散文「トマト」 投稿者:徳沢 愛子

夏の朝  トマトは待っています
バケツの水をちゃぽん ちゃぽん
させながら坂を登ってくる
君を待っています。
遠くから揺れる水音が聴こえます
昨日の猛暑を耐え抜いたトマト
明け方 思い余って、
体から繊毛を生やし
空中の水分を鷲拙みにして
取り込んだところです
息をついたところです
繊毛は微細な朝露を
きら星のように 身につけ
儚い命を 今 着飾っています
陽は再び襲うように
立ち上がってきます。
赤いトマトはいよいよ紅潮して
蒼いトマトはいよいよ蒼ざめて
空に近いトマトも
地に近いトマトも
葉陰のトマトも
太ったのも 貧弱なものも
赤いのは 赤いなりに
蒼いのは 蒼いなりに
ぎりぎりと待っています
水音よ 君よ
と 叫んで待っています
もう自助行為は限界です
トマトは待つことを
ただ一点にして待っています

炎熱を孕(はら)んだ
晴れた夏の朝です。

  • トマトが書いたものではないかと思うほど切実です。水やりで炎熱からトマトを救いましょうという人間の気持ちに戻りました。トマトは食べるものという感覚を忘れてしまいそうでした。 -- 岸野みさを 2019-04-23 (火) 11:02:43

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